『無法松の一生』
~〝セルフリメイク〟に挑戦した傑作~

映画

(三船敏郎の功績を追ったドキュメンタリー映画『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』(2018年、スティーヴン・オカザキ監督作品)の予告編より)

〝三船敏郎〟という名優

クロサワ映画のヒミツ

 「日本映画界の巨匠」と聞いて、すぐに思い付く人、と言うと、無論、好き嫌いはさておくとして、また、今の若い人がどう評価しているのかはわからないですけど、「世界のクロサワ」こと黒澤明が代表的な一人であることに異論はないでしょう。

 代表作を5本、というだけでもすぐに『羅生門』『七人の侍』『生きる』『用心棒』『赤ひげ』(年代順)とかが思い浮かび、それどころか、5本なんて数に絞ると、それこそアカデミー賞とかカンヌ、ベルリンら国際的な映画賞を受賞しているいくつかの作品が漏れてしまうってんですから、とにもかくにも、とてつもない巨匠ではあります。さすがに全作品を追い切れてはいませんが、私も主要な作品はほとんど観ております。
 敢えて好きな順、に挙げますと、トップ3が『用心棒』『赤ひげ』『七人の侍』。次点に『羅生門』『蜘蛛巣城』『生きる』。続いて『隠し砦の三悪人』『酔いどれ天使』『天国と地獄』。
 でまあ、一番(それもぶっち切って)好きな『用心棒』の続編?ということで『椿三十郎』も入れておきましょうか。あとは番外編で『影武者』に『まあだだよ』……とか?。

 こう見てきて、あることに気付くのです。私の好きなクロサワ作品には、必ず三船敏郎が出演している、ということに、です。
 上記の12作品で、番外編を除いて唯一の例外は『生きる』ですが、この作品は超娯楽大作的なダイナミズムがなく、その意味では、〝クロサワ作品〟らしさは今ひとつ。
 つまり逆説的に言うと、「クロサワ作品らしさ」は三船によって成立している、ということになりはしないか、と。
 無論これは、「私の中では」という注釈がつくわけですけども。
 巨匠が起用し続けた(全部で16作品)、という理由で「クロサワあっての三船」のイメージがありますが、実は「三船あってこそのクロサワ」だった可能性すら感じます。

クロサワ以外の三船

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 さて、ここからが本題です。
 「三船あってこそのクロサワ」の可能性に気づかされたのが、1958年の『無法松の一生』(監督:稲垣浩)でした。三船はこの映画で主人公の富島松五郎を演じています。お相手は高峰秀子。
 岩下俊作の小説が原作で、最初に映画化されたのは戦前、それも1943年といいますから、戦争末期に同じ稲垣浩監督で制作されています。つまり三船のバージョンは、監督の〝セルフリメイク版〟ということになります。

 実はこの『無法松の一生』。初見は大学に入ってしばらくしてからで、クロサワ作品をひと通り観たあと、でした。というのはタイトルから受ける印象で、〝無法者の〟、〝松五郎の〟、〝一生〟を描いた物、すなわち、〝任侠物〟か?という勘違いがあったからです(先入観はいけませんな)。
 そしてまた、本編を観たら観たで、これまた「あんたそんなことも知らんかったの?」と罵られるようで恥ずかしくなったのですが、三船が、クロサワ映画で知っていた三船とはまったく違っていた。
 ややもすれば無骨で、大根役者っぽいところ(それはそうかもしれないのですが)があるように感じていたのに、繊細でデリケートな心の動きや、不器用な一途さとかを丁寧に表現してくれて……。ひとつひとつの動きが愛らしい、のです。
 有名な作品なのでネタバレもなにもあったもんじゃないですが、細かいストーリーを書くのはヤメておきます。ただただ、〝名作〟の名に恥じません。

 ところが、です。
 それがその~、戦前のオリジナル版がですね、「日本映画史に残る最高傑作」くらいに名高い作品でして、映画好きの諸先輩に言わせると、「三船も頑張ってるけど、やっぱりバンツマ版には適わない」とか、手厳しい人だと、「比較にならない」くらいの評価になるんですね。

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 バンツマこと阪東妻三郎が富島松五郎を演じたオリジナルバージョン(2022年7月28日にBSプレミアムで放送)は、確かに撮影が伝説の宮川一夫ですから、それこそ始まって最初の2~3分のインパクトだけでも強烈です(リメイク版も手法は踏襲されていますが)。
 しかも、そもそも主人公は学のない荒くれ者で、職業が人力車の引き手、いわゆる車夫という、まあ言ってみればあまり育ちのいい人物ではない、でも、人はいい。というキャラクター。これにバンツマは見事に嵌るんですよ。
 三船もいいんですよ。いいんですが、彼は基本的にハンサムでカッコいいですから。いかに貧相に振舞ってみせても、どことなく違和感が生じてしまう……。いや、バンツマが嵌まり過ぎてるんじゃないのかなあ。他にも細々したことはいろいろあるんですけど……。

滅多にない〝リメイク〟推し

 とにかくまあ、ですから「オリジナル版の方がいい」という皆様の意見は重々承知したうえで、になるのですが、敢えて自分は「リメイク版の方が好きだ」と主張したいのです。

 わざわざ監督がセルフリメイクしたのには理由があって、オリジナルは戦争末期で検閲が厳しく、重要なシーンが大幅にカットされたあげくの公開だったから、なのです。で、戦争が終わったら終わったで、今度は天下のGHQ様から、逆に「軍国主義を想起させるシーンがある」と難癖がついて上映禁止……なんてこともあったと伝わっています。
 そうしたことを戦前戦後の動乱期に経験し、忸怩たる思いを抱き続けた関係者が、戦後10年以上が過ぎて、ようやく辿り着いたセルフリメイク版。制作スタッフの気合の入り方がところどころに感じられますし、全編を通した三船、高峰の名演は文句のつけようがないです。

 特に終盤の三船が祇園太鼓を叩くシーンはオリジナル版を凌駕しているように思いますし、その後の二人のやりとりときたら珠玉の名シーン……いやまあ、オリジナル版ではここがカットされているわけでして、もしバンツマと、宝塚出身の夭折した天才女優・園井恵子のバージョンが現存していたら、どんな印象を抱いていたかはわかりません。が、ないものをどうこう言っても始まりませんから(観たかった思いは否定できませんけど)。

 とにかく、言いたいことはひとつ。三船の魅力はクロサワ作品の中だけで輝いているのではない、どころか、むしろこっちの方がいいのでは?、と思わせるくらいの作品として衝撃を受けた、ということ。

 いやまあ、そりゃあ『用心棒』の桑畑三十郎も〝ザ・ミフネ〟には違いありませんけれど。

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