早いもので6月26日には阪神競馬場で第63回宝塚記念が行われます。今年のJRA上半期を締めくくる、最後のGⅠレース、というこになりますね。昨年暮れから続くGⅠレースでの1番人気馬の連敗記録(?)はどうなるのでしょうか?
そんなわけで、宝塚記念を迎える前に、この春のJRAの競馬を振り返ってみようと思います。
日本競馬の課題
スローペース症候群
のっけからやや深刻な話になって恐縮です。
〝スローペース症候群〟という言葉が定着して久しいですが、競馬場の記者席でも、テレビ桟敷で画面を見ながらでも、スタート直後にしばしば感じられることがあります。
「なんで皆、あんなに引っ張りあってるんだろう?」
ということ。
馬場管理の技術が昔とは比べものにならないくらいに発達していて、速い時計が出やすい状態になっているのは間違いないと思うのですが、それなのに「スピードを生かし切る」という方向に気持ちがいかない、ってのは何故なんでしょうか?
と思ってしまう。
6月5日の安田記念のテンの3ハロンは34秒7。これは5月15日のヴィクトリアマイル(以下、Vマイル)とまったく同じラップですが、安田記念の1000m通過58秒7は、牝馬限定戦であるVマイルの58秒0よりもコンマ7秒も遅い。
両方のレースを使ったソングラインにしてみれば、Vマイルは勝負どころで躓いて取りこぼした印象がありましたから、どんな流れであれ、今季のデキなら牡馬相手の安田記念でも圧倒するパフォーマンスが可能だった、ということかと思います。レースの上がり3ハロンは33秒8。ソングラインが使った上がりは32秒9ですから、勝ちっぷりは強いの一語でした。
ただ、1番人気に支持されて8着に敗れたイルーシヴパンサーの上がり3ハロンは実に32秒6で、7着エアロロノアと最速タイ。要するに、負けた方は究極の瞬発力勝負に泣かされた……。
〝時計が速過ぎる馬場〟を日本競馬のガラパゴス化(……この表現は適切ではないと思うので以後はローカル化にしますが)と称する方がいらっしゃいますが、日本競馬のローカル化はそれだけでなく、レース形態や考え方そのものが、〝狭い世間の常識〟になってしまってたりしないか、などと不安になる時があります。
例えば、「単に時計が速い馬場だから故障しやすい」のではなく、「レースの質からして〝異様〟であることも影響していないだろうか?」といったような発想、視点の転換思考だったり、そうした議論そのものが希少であったり……。
特に中・長距離戦でそれが顕著になればなるほど深刻に感じられますし、ましてちょろっとヨーロッパに出かけて行って、大きなレースを勝とう、ってのはより厳しくなりませんか?
本場を見据えたビジョン
「滅茶苦茶タフな馬場だからスタミナを温存させよう」
というような理屈ならわからなくはないですが、普段から物凄く状態が良く、負荷のかからない走りやすい馬場で、常に前半タメて〝ヨーイドン〟のレースを繰り返す。そんなような競馬に慣れている馬が、突然ヨーロッパに出向いて対応できるんでしょうか?
5月29日の日本ダービーでは〝展開上〟珍しくタフなレースになりましたが、それでもレースレコード決着。このレースとて、「いつも経験してない競馬に対応できる馬とできない馬の差が出ただけ」という捉え方もできなくない。
そりゃあまあ、勝負は時の運ですから、強い馬が、たまたま条件が揃ってチャンスをモノにする、といった同じようなケースは、ヨーロッパでも起こり得るでしょう。そういう芸当をやってのけるだけのレベルには、日本の馬も到達している、とは思います。
ですが、そんな場当たり的な発想で、しっかりしたビジョンを持って本場の競馬に向き合っている、とはたして言えるのかどうか……。
わかり切ったこととして、〝挑戦することの意義〟は認めます。
ですから、改めて考えてみていいことではないか、とも思うのです。
1番人気馬連敗中
難解さの要因
春シーズンの競馬に戻しましょう。
今更のことではありますが、2月20日のフェブラリーSで幕を開けた2022年のJRAのGⅠ戦線。3月27日の高松宮記念から、4月4週目の〝お休み(?)〟を挟んだ後の6月5日の安田記念までの11週間に10(J・GⅠの中山グランドジャンプを除く) のGⅠレースがあったわけですが、フェブラリーSからの11のレースの1番人気馬の成績は以下の通り。
フェブラリーS - レッドルゼル (2着)
高松宮記念 - レシステンシア (6着)
大阪杯 - エフフォーリア (9着)
桜花賞 - ナミュール (10着)
皐月賞 - ドウデュース (3着)
天皇賞(春) ー ディープボンド (2着)
NHKマイルC - セリフォス (4着)
ヴィクトリアマイル - レイパパレ (12着)
オークス - サークルオブライフ(12着)
ダービー - ダノンベルーガ (4着)
安田記念 - イルーシヴパンサー(8着)
前年のGⅠ最終戦であるホープフルSのコマンドラインが12着でしたから、目下1番人気馬は12連敗中(!)ということになります。
その原因として、競走馬全体のレベルアップ、ローテーションの多様化、それらを発信するネット社会の情報の伝わり方、などの影響があるかと思いますが、これらに加えて、先に触れた馬場状態への向き合い方と、異様なペース配分に対する馬の適応力の見極め方が難しいこと、も挙げられるのではないか、と思ってます。
つまりは当たり外れは時の運(当たり前)ですから、たまにうまくいった時、間違っても「わかった」などと思わない方が無難です。そのほとんどは〝ザ・勘違い〟の類でしょうから、いずれ痛い目に会うのは必定(?)です。これは自戒を込めて、ですけれど。
いずれにしましても、この春シーズンは一筋縄ではいかない厄介さがつきまとっていた、という印象がありますです。
というわけで上半期の掉尾を飾る宝塚記念。1番人気馬はどんな走りを見せてくれるでしょうか?。いや、そもそも、どの馬が1番人気なのでしょうか?
2週前登録時点の出走馬にエフフォーリアとタイトルホルダーの名前があります。ご存じの通り、宝塚記念はファン投票がありますから、その集計結果を見ると、大方このどちらかが1番人気になるのでしょうか?
と想定して、さて両者の比較ですと、やはり直接対決で3戦とも先着しているのがエフフォーリアですから、こちらが1番人気なのかな?とは思います。しかし、ファン投票の1位はタイトルホルダーの方ですからねえ。
最後に1番人気馬が勝ったGⅠレースは昨年の有馬記念で、勝ち馬はエフフォーリアです。連敗ストップを託すのは、やはり〝グランプリホース〟だった、というオチ(シナリオ)は……ダメですか?
真夏日に誕生したダービー馬
春競馬のメインテーマ
今年の春競馬の〝隠れたテーマ〟……というより、武豊騎手の6度目の日本ダービー制覇で、むしろ〝メインテーマ〟になったワードが、
『苦難を経ての復活劇』
でした。
フェブラリーSでカフェファラオが1年ぶりの勝利で連覇を飾ったのを皮切りに、続く高松宮記念は〝復活〟ではないですけど、苦節16年目の丸田騎手のGⅠ初制覇。ここ数年、ノーザンファームに水を開けられながら、年明けから好調だった社台ファームが桜花賞を(続くオークスも)勝ち、いろいろあった木村厩舎が皐月賞ワンツー。アイドルホースのソダシは昨年の桜花賞以来のGⅠ制覇を遂げ━。
そしてコロナ禍で閑散としていた競馬場にたくさんのお客さんが戻ってかつての賑わいが〝復活〟し、とどめに日本ダービーでの武豊騎手の復活です。
サイン馬券的に言うつもりはないですけど、今年のJRAのCM『HERO IS COMING.』に出演中の長澤まさみさんが、プレゼンターとして来場された日本ダービーの勝者が武豊騎手ですんでね。
そのことが「良かった」と言うつもりもありませんが、そういうシーズンだった、ということで記憶せざるを得ません。
真夏日のダービーを勝った馬のその後
ところでその第89回日本ダービー。何しろ注目度が半端じゃなかった。それこそ近年のJRAのコマーシャル戦略の賜物だったでしょうか?
とにかく、いろんなところで、いろんなことが話題になったようです。
例えば当日の東京競馬場がある府中市の気温は31度の真夏日になりましたが、そこで話題になったのがこちら。
「真夏日にダービーを勝った馬のその後」
です。
真夏日に行われた日本ダービーを勝った馬達を列記しますと、以下のようになります。
1999年アドマイヤベガ
2004年キングカメハメハ
2007年ウオッカ
2014年ワンアンドオンリー
2015年ドゥラメンテ
2019年ロジャーバローズ
で、今年2022年のドウデュースが7頭目になるようです。
真夏日が制定された正確な年がもうひとつわからず、あくまで参考程度、にはなりますが、私が成人にある頃にはもう〝真夏日〟はあったように思います。しかしダービーの日程とか平均気温の推移を考えると、そんなに昔から「真夏日のダービー」があったとも思いにくい。
ちなみに、過去には7月にダービーが施行された年が2度あるのですが、1972年ロングエースの時は天候は雨。1968年タニノハローモアの時は天候こそ晴れですが馬場が稍重、といったことを考えると、真夏日だったかどうか……。
とりあえず、そんなことも踏まえて、の話、と思ってください。
上に挙げた過去の6頭を見ますと、ダービー後にGⅠを勝った馬はウオッカしかいない、ということがわかります。
「夏に強い」
とされる牝馬のウオッカ1頭だけ、というのは興味深くないですか?(ウオッカはダービー後にGⅠを勝っているどころか、5勝もしてるのでまったくの規格外ですが)。
『最も強運の馬が勝つダービー』
真夏日に勝利するってことの意味には、そういうことも含まれるんでしょうか?
さて今年の〝真夏日のダービー〟を制したドウデュース。これから先、一体どんな走りを見せてくれますか……。
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